今日は私の誕生日。家族や友達に祝ってもらえる。時には、誕生日だから、という理由で、何かと用事を代わってもらったりもする。
そう、今日は私にとって特別な日。だからこそ、そんな日を好きな人と過ごしたい、と思うのはワガママかな?誕生日だからって、さすがに欲を言い過ぎ?
「日吉。今日は部活・・・・・・。」
「いつも通りだが?」
「・・・・・・だよね。」
ちょっと期待しながら、彼氏の日吉に問いかけたなら、あっさりとそんな返事がきた。
わかってる。自分の誕生日と、彼氏の部活は何の関係も無いってこと。それに、彼氏にとっては大好きな部活。だったら、むしろ、いつも以上にやらせてあげたいぐらいだ。
そう思ってるはずなのに、私は少し暗い顔をしたみたいで、日吉が申し訳なさそうに言ってくれた。
「・・・・・・悪いな。今日は、お前の誕生日だというのに。」
「う、ううん!だって、私の誕生日とテニス部の部活は何の関係も無いんだもん!!」
それに、日吉が気にかけてくれたっていうだけで、私の気分はすっかり良くなったから。・・・・・・って、やっぱり私、落ち込んでたんだね。
本当、贅沢だなぁ、なんて自分で自分が可笑しくなっていたところに、日吉が予想外のことを言った。
「そうだな・・・・・・。じゃあ、今日は先に帰るか?」
「え・・・・・・。」
「の言う通り、俺の部活時間を変えることはできない。それなら、俺を待つより、先に帰って自由に過ごした方がいいんじゃないのか?」
「・・・・・・ううん。待ってる。」
「そうか・・・・・・。悪いな。」
「ううん・・・・・・。」
違う。そんなことを謝ってほしいわけじゃない。たしかに、今の私は機嫌の良い顔ではないと思う。でも、それは待つことが嫌だから、じゃない。日吉が先に帰るか、なんて言ったから、だ。
誕生日はもっと一緒に過ごしたい、そんな私の考えがわからないってことは、日吉自身そう思っていないんだろう。それにも悲しくなってくる。
さすがに、学校内でそんな喧嘩をするわけにもいかず、そのときはその程度の会話で終わった。
そして、私は、いつもの時間に、いつもの場所で、いつも通りに日吉を待っていた。日吉がいつも来る時間まで、あと・・・・・・そう考えて、私は学校の時計を見ようとした。その視界に、少し急ぎ気味でこちらに向かってくる日吉の姿が目に入った。
「待たせたな。」
「・・・・・・ううん、いつもより早いぐらいだよ?」
「そうか。それなら良かった。今日は、お前の誕生日だからな。」
そう言って、日吉は少し微笑む。
・・・・・・あー、もう!
正直に言うと。私は、やっぱり、あまり気分が良くなかった。だって、あまりに普段と一緒なんだもん。その上、日吉には気持ちをわかってもらえないし・・・・・・。
と思っていたところに、この言葉。そんなこと言われて、機嫌を直さないわけにはいかないじゃない!
「あ、ありがとう・・・・・・。」
「気にするな。・・・・・・それより、早く帰った方がいいんじゃないのか?」
だけど、また、そんなことを言われてムッとする。・・・・・・やっぱり、わかってない!
「・・・・・・日吉がそこまで言ってくれるなら、早く帰った方がいいかもねっ!」
あ〜あ・・・・・・。こんなことが言いたいんじゃないのに・・・・・・。
私は明らかに怒りのこもった言い方をしてしまった。それに対して、日吉は不思議そうな顔をしている。
・・・・・・ごめん。日吉は何も悪くない・・・・・・ことはない。
「?」
「なに?」
だから、日吉に呼ばれても、素っ気なく返す私。
・・・・・・私って子供だよね。今日で、1つ大人になったはずなのに。
「・・・・・・いや。やっぱり、早く帰った方が良さそうだな。」
でも。日吉にそんなことを言われて、もう我慢の限界。
「さっきから、何なの?そんなに私に帰ってほしいの?そんなに私といたくないの?」
「・・・・・・そんなことは言ってねぇだろ。今日はお前の誕生日だから・・・・・・。」
「ってことは、日吉は自分の誕生日に私といたくないってことよね?だから、私に早く帰った方がいいなんて言うんだよね?」
周りの注目を浴びるほどの大声は出していない。そんな情けないことはしていない。
でも、言ってることは、確実に情けないことで・・・・・・。こんなことなら、最初から素直に言った方がマシだったよね・・・・・・。きっと日吉にも呆れられてる・・・・・・。
そう思って、日吉の顔を窺ってみる。・・・・・・けど、日吉は何かを考えているような表情をしていた。
「・・・・・・そうか。それもそうだな。」
「へ・・・・・・?」
「そこまでは考えてなかったな。」
「日吉・・・・・・?」
日吉は一人で何か納得している。・・・・・・って、何に??
ぽかんと日吉を見つめていると、日吉が少し笑った。
「お前も、そういう考えだとは思ってなかった、ってことだ。」
私も?・・・・・・ってことは。
「それって・・・・・・。」
「ああ。俺は自分の誕生日ぐらい、を独占したいと思っている。」
「え・・・・・・!?」
日吉にはっきり言われ・・・・・・、しかも『独占』って!なんて思うと、だんだん恥ずかしくなってきた。
いや、そりゃ、私だって、そういうことかもしれないけど・・・・・・。でも、ただ単に一緒にいたいな〜って思ってただけで。そんな風に言われると・・・・・・。
そわそわしだした私をよそに、日吉はいつも通り、冷静に説明を続けている。
「だが、今日はお前の誕生日であって、俺の誕生日ではない。だったら、の好きにさせねぇと、意味がないだろ?今日まで一緒に過ごしたら、俺の誕生日と変わらねぇんだから。」
・・・・・・そうか。一緒にいたくなかったんじゃなくて、日吉なりに、私のことを考えてくれた結果、だったんだ。それが少し間違っていただけで・・・・・・。
でも、そうだよね。最初から日吉は、今日は私の誕生日なのに、ってちゃんと言ってくれてたんだから。それに私だって、どうしたいか、なんて説明してなかったんだから。
だけど、もうわかったよね?私がどう思っているか・・・・・・。
「ありがとう、日吉。でも、私は今日も・・・・・・。」
「ああ、わかってる。お前は俺に独占されたいんだよな?」
「なっ・・・・・・!!えぇっ!??」
予想外の言葉が返ってきて、さすがに大声を出してしまった。道行く何人かの人が少しこっちを見る。
「ご、ごめん・・・・・・。」
「・・・・・・くくっ。」
でも、日吉は楽しそうに笑いをこらえている。・・・・・・も、もう。何なのよ。
「も、元はと言えば、日吉が変なことを言ったせいなんだよ?!」
「・・・・・・悪かった。」
そう謝りつつ、日吉はまだニヤリとした笑みを浮かべている。・・・・・・もう!
私はまたムッとするけれど、さっきのものとは全然違って。今回のは、正直・・・・・・照れ隠し、みたいなものだ。
だから、ふいっと顔を背けて、赤くなっているであろう顔を隠す。なのに。すっと、日吉が顔を寄せてくる気配がした。・・・・・・直後。
「そんな顔をしても、もう早く帰った方がいいなんて、言わねぇからな?」
「っ!」
耳元で、そんな言葉を囁かれ、一層顔が熱くなる。そして、また日吉は横で笑い声を漏らさないようにしている。
「日吉っ!」
「さて、ゆっくり帰るとするか。」
「無視するなー!」
その後、少し寄り道をしてから、いつも通り日吉に家まで送ってもらった。来年の誕生日は私が独占してやる、なんて結局意味のない決意をしながら・・・・・・。
よっしゃー、書けたー!昔、跡部夢で季節を限定した、ヒロインの誕生日夢を書いてしまったので、今回はいつでも大丈夫な感じで頑張りましたっ!んで、一応サイトの誕生日に・・・(笑)。
何はともあれ、去年は日吉くんの誕生日夢で終わり、今年はヒロインの誕生日夢で始まった、当サイト。なかなか更新はできませんが、本年もよろしくどうぞ!
それと、今回は、もう一つ書きたいことがありました。それは・・・意地悪な日吉くん!
最近、振り返れば、何だか乙女チック(?)な日吉くんが多かったので(笑)。初心に帰って、好きな子ほどイジめたくなっちゃうタイプにしてみました。・・・と言っても、こちらは書いている途中に思ったことなので、「誕生日に独占したい=一緒にいたい」という考えは、結構乙女チックですが(笑)。
('12/01/17)